篆刻オーダーショップ土抱

漢字字形の問題

2014年1月18日

漢字字形の問題点「漢字字形の問題点」野崎邦臣著(天来書院刊)という書を読んでいる。長年教師として漢字を教えてきた著者が、学校で漢字を教える場合にぶつかる問題について詳細に調査してまとめたものだ。さまざまな字例が実に豊富に示されている。野崎先生は主に歴史的にどういう経緯で字形が定まってきたのかを調べ、より正統な字形を採用したいように感じた。以下、僕の考えを記し、また後日個別の文字についても書いてみたいと思う。

漢字はB.C.1000頃の甲骨文字にはじまり、現在までおよそ3000年以上の歴史を持つ。もしかしたら発掘調査が進むと4000年かもしれない。
歴史的な字形の変化を大雑把に言うと、まず篆書がありその次の隷書までは、おおまかな字形の骨格は同類と考える。王羲之時代(4世紀頃)に楷書が完成してきて、ここでこれまでとは字形の異なる文字が多数生まれることになる。その後、初唐(7世紀)には王羲之を範とする文字文化が隆盛するが、7世紀後半の顔真卿による文字革命(革命というほどではないか?)により、篆書隷書由来の字形が楷書に多数用いられ、一般にも広まったと思われる。清代(18世紀)には康熙字典が編纂され、いわゆる活字の正字体が顔真卿由来の字形によって完成することになる。そして、明治以来の日本の教育現場では、唐代の楷書系の字形が採用されてきたが、印刷物では明朝体系が多く用いられ、書き文字と活字の文字で差異が生まれ使用されるということになってきた。

筆写文字の流れを図示すると
【篆書・隷書】>【王羲之・初唐】>【顔真卿】
という感じだ。

僕の考えだが、手書きの文字は初唐時代の楷書系の字形を使うのがよいと思う。現在の日本では楷書が正式な字体なので、楷書として一番合理的に素直にまとめられているのは初唐の楷書だと思う。そして、小学校で教えている楷書が、ほぼこの楷書の字形だということも大きな理由だ。例えば、小学校では「しんにゅう/しんにょう」の点は1つで書くと習ったが、中学校で「謎」という文字を習うとこの文字のみ点2つで書かねばならない、というようなことではたまらない。「謎」や「遡」は常用漢字表で点2つで表記されているから、こういう混乱が起こってしまう。
日本では独自に筆画を省略して出来た漢字などもある。だから、古い中国の文字には無い字形の文字もあるので、それらはもうそれで通用してしまっているから独自に考えればよいことだ。
ただ、やはり学校教育ではこれらの問題に正面から向き合って結論を出して実行しなければならないと思うが、一般社会では既に手書きの文字の出番がどんどん少なくなっている。パソコンでどういう文字を使用するかというのも、その場面によっても違うし、さまざまな状況も考慮して判断しないといけないと思うので、ここではあまり触れないことにする。ましてや人名などの固有名詞のことも思うと、簡単に統一するわけにはいかない。

さて、こういった観点から「漢字字形の問題点」で挙げられている問題について、これから少し書いていくつもりだ。この書では、筆画の形の違いの字形のみならず、横画の長短や収筆のハネなど、やや細かい点についても挙げているが、僕の場合は、ひとつの文字で骨格が違う複数の字形が考えられる場合に問題として考えてたい。骨格が違うというのは曖昧だが、線の長短や点の角度などではない違いということだ。


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